2023年9月に行われたCGWORLD企画、Blenderユーザーのための技術交流イベント『Blender Fes』のセッションの一つ『3DCG to 漫画』の受講記録です。学習メモ。
マンガ制作でどのように3DCGを活用しているか。
登壇者は漫画家の浅野いにお氏(@asano_inio)
コンテンツ
浅野氏と3DCG
浅野いにお氏
漫画家生活25年ほど、昔からアナログとデジタルを併用していたとのこと。CG導入は5,6年前から。Blender4、5年前から。基本独学。
作画の合間に必要なプロップの作成をしていたが、時間が取れず、スキルも上がらないということがから、長期連載にキリがついた時をきっかけに約半年、CGを集中して学習する期間を持ったという漫画家さん。
参考作画はphotoshopを使用されているとのこと。
3DCGを導入したきっかけについても語られている動画
作業画面が見れる貴重な動画
現在使っているツールは
- Photoshop
- Blender
- Substance painter
- UnrealEngine
とのこと
【作例】デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション
- 連載8,9年やっていた作品。初期では全くCGを使用していなかった。
- SFものというのもあり、宇宙船などでCG制作の必要性を感じてきた。
- アシスタントとの情報統一、クオリティ統一のためにもCGを置き換える必要性を感じた。
- テクスチャはSubstancePainter
- ロボットや宇宙船にはかなりCGは有効だった。
- 当然レンダリング後、人の手は入れている。(レンダリング→アウトライン抽出→手作業による加工)
- 写真から漫画を描くというトレンドも一時期あったが、ある程度で限界が来る。写真を撮れないようなシーンはどうするのか問題。
- デデデ後半で出てくるロボットは、浅野氏のモデリング
- 漫画には読みやすさのクオリティラインがある。作り込めば良いものではない。
- 必要なクオリティラインを理解しているのが作家自身のため、基本自分で出来るようにした。
- マンガを見てもらえばわかるが、手で描くのに相当コストがかかることがわかる(ロボット)
- CGのシミュレーションで破壊された背景を作成。破片を加工し、photoshopの素材として活用
- CGでこういう表現が出来るから、作品に活かしてみようという逆算的な思考をもってアンテナを張っている。
浅野氏がCGを導入するきっかけになった作品と言うことで、変遷を見ることが出来るかもしれませんね。
【作例】MUJINA INTO THE DEEP
- デデデでは単発でのCG活用だったが、半年の学習期間を経た後、この作品では街を丸ごとCGで作成するという発想に至る。
(引用元:3DCG to 漫画 https://cgworld.jp/special/blenderfes/vol1/channel/channel-106/)
(引用元:3DCG to 漫画 https://cgworld.jp/special/blenderfes/vol1/channel/channel-106/) - キャラ以外はほぼ全て3DCG。1巻は特にチャレンジ的な意味合いで99%背景は3DCGを使っている。
(2巻目以降はももう少しバランスを取って作成していく予定) - 自分で作成した物、購入したアセット等を上手く併用している。
- 今までの作画のイメージを3Dで再現するというよりは、レンダリング画像をいかにマンガに寄せるか。新しい絵柄を模索していっている
- 自動販売機などのフォトリアルな背景を手で描こうと思ったら、かなり時間がかかるが、3DCGで一度作成してしまえばロケハン(カメラアングル)を決めてレンダリング、加工すれば短時間で終われる。
- プロップはマテリアル込みで作成している。白黒のモデルを使用している人もいるが、カラーイラストにも使って行きたいという理由から。
- 基本的にはフルカラーでフォトリアルなものを目指している。
- この作品のキーアイテムは刀と特殊な靴。靴をモデリング。靴はメカと同じく作画がムズイもの。刀もモデリング。存外ムズイ。テクスチャも込みで作成しておく。最終的には白黒になるので、その時に映えるデザインにしておく。
- 靴はつま先までリギング。細かなポーズ作成には必須。
- 最終的にマンガで使えれば良いので、トポロジーはあまりこだわらない(作者が作成する理由、必要クオリティラインに直結する話)
- キャラクターをCGで作成しない理由は、タイムパフォーマンス。
- UEのキャラに作成した靴を履かせて、シーンのあたりを作成(ポージング集からポーズを流用)
- 2巻ぐらいからは自分でアニメーションも作成
- 街の作り方→モジュール構造・キットバッシュ的にパーツを作成し、それをUE内で組み立てていく(素材は1000を超える)。
素材作りはBlender。看板も自分でphotoshop等でつかってる。テクスチャサイズもしっかりと考えてる。 - 最近はテクスチャにAIも使ってる。
- アセットは購入できるものは購入したほうがいいと思うが、日本固有の形状となると中々ないため、最終的に自分で作成する
■基本すべて自作。日本らしいゴチャゴチャとした街並み感を再現するには看板も大事。
一部をアシスタントに任せることはあるが、ベースとなるクオリティラインを決めるためにも氏自身が作成することが多い
(引用元:3DCG to 漫画 https://cgworld.jp/special/blenderfes/vol1/channel/channel-106/)
浅野さんのこだわりのパーツ類がすさまじい。
実際の作画での活かし方
写真を使っていた時代は、看板等の修正にかなりの時間を取られていたが、
自ら作成したCG素材を使用することで、そのあたりの問題無く作成できるのが大きな効率化。
背景制作
- Blenderでプロップ(漫画の中で使うもの)を作成
- UEに持って行って配置
- 背景に使用する
作画化
- レンダリング
- Photoshopでアンシャープマスク、2階調化
- 人手での線調整
-
遠景のモブキャラなどは、人手での調整の際に、服装や髪形などにバリエーションを持たせてもらうこともあるが、ベースがあるのでとても早く仕上がる。とのこと
浅野氏のこだわり
- 自分でCGを作成できるようになること
- 必要なCGのクオリティラインを自分で把握すること
デッドデッドデーモンズデデデデデストラクションに始まり、MUJINA INTO THE DEEPの1巻までを経て
3DCGを使ってマンガを描く有益性を確信した。
当然合う合わないはあるかと思うが、イラストや漫画を描く人はモデリングを楽しくやれると思う。興味があればドンドンやってもらうのが良い。基本的にプラスになる。3Dをきっかけに新しい気づき、表現を得ることが出来る。
自分の能力を拡張するためにも有効だと思う。
「いくらでもマネしてもらっても構わない」とのこと、興味を持った方は是非色々調べてチャレンジをば!
ココまでCGを活用されているのか!という驚き
CGを使用されている漫画家さんという意味では以前から存じ上げていたのですが、まさかここまでガチンコで作成されているとはつゆにも思わず。
CGworldEntry浅野いにおさんのマンガ付き!レアでは?
CG界隈でかなり知られた漫画家さんではなかろうか、、AutodeskさんのMayaリグセミナーでも浅野さんのキャラがモデルだったし#浅野いにお pic.twitter.com/KjGdRyAiik
— moco@らくがきクリエイトmononoco (@mono_moco) February 11, 2021
漫画家さん視点の、コストと作画バランス、クオリティラインの話はとても興味深く、話を聞くまでは
気軽に外注できたら効率化なんじゃないかな…
と思っていた自分の思考を恥じたい気持ちでしたね。
とても面白いセッションでした。
参考UnrealEngineのイベント『UNREAL FEST 2023 TOKYO』では
もっと技術に特化した話がなされていたようなのでこちらも必読。
漫画家・浅野いにお氏による『MUJINA IN TO THE DEEP』での3Dモデルの使い方。@ゲームメーカーズ
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