2023年9月に行われたCGWORLD企画、Blenderユーザーのための技術交流イベント『Blender Fes』のセッションの一つ『ミュージシャンの僕がBlenderを活用した映像クリエイターになるまで』の受講記録です。学習メモ。
映像作家たる涌井氏のこれまでの軌跡。
登壇者は映像ディレクター / VFXアーティストの涌井 嶺氏(@Ray_T6L)
コンテンツ
セッションコンセプト
2021年4月、およそ1年半の制作期間を経てBlenderを使用し完成させた、自身のバンドのミュージックビデオ「Everything Lost」。このMVが完成するまでの道のりと、どのようにしてBlenderを知り、学習してきたのかを語ります。学習モチベーションの維持や制作の上でこだわったところにも触れます。さらには公開後の反響や、その後の映像クリエイターとしての活動にどう繋がったか、仕事として3DCGやVFXに携わる上でさらに何を学ぶ必要があったか、そして現在チーム「VeAble」で行っているチーム制作のワークフローも紹介します。
涌井氏がどのようにBlenderを学んできたのか、学ぶ上でモチベをたもってきたのか、仕事としてやる上でどのような学びが必要であったかについて。
涌井 嶺氏
東京大学で航空宇宙工学を学んだ氏。大学時代に結成したバンドのMVを自主制作したことがきっかけで、VFX映像制作を始める。
メインツールはBlenderとAfterEffects。
■初作品のTHE SIXTH LIE「Everything Lost」
自主制作もあって1年半かかったという本作。映像制作自体はその以前より行っていたので、初作品とは言え、映像作品としては初作品ではないそう。
Everything LostができるまでのBlender学習法
- 壮大なテーマを持った今楽曲。今作を機会に3DCGを始めようと思い立つ
- IanHubert氏のLazy Tutorialsで学ぶ
- Blenderを使えないけど見切り発車(やらざる得ない状況をつくる
- Blenderの学習とファーストカットの作成に半年。その他に1年かけて制作。
- 2021年にMV公開
衝撃をうけたメイキング動画。狭いスタジオで撮影しているのに、仕上がりは壮大。無限の可能性を感じる
Blender学習法
- バンドメンバーからのプレッシャー(合成っぽい、CGっぽいのは嫌)
- 「リアルなファーストカットを作る!」という明確な目標の元、独学をスタート
という前提のもと、数多あるBlenderの機能の中から機能を絞って学ぶ。
目標をはっきりさせることが大事。
涌井氏の場合は「リアルな実写合成シーン」を作りたい。という所からの逆算。
- リアルな背景モデル制作 (ポリゴンモデリング、テクスチャマッピング、シェーダー、モディファイア)
- カメラトラッキング(カメラトラッキング、アニメーション)
- 実写と合わせたライティング(ライティング)
- コンポジット想定のレンダリング(コンポジット、レンダリング)
これらを学ぶために、
- IanHubert氏のPatreonに加入。アセットやデモシーン、チュートリアル動画を得ることが出来る。
- 目的のテーマ以外、初心者チュートリアル敵は動画はほとんど見なかった
- あとはひたすらシーンの試作&試行錯誤。アセットもほぼ制作
ひたすら目的(MV)を作るために活動。
Everything Lost公開後の反響、制作モチベーション
自分のバンドのMV。時間は描けても良かったが、完成させる必要はあった
→適度な責任感。
→「ひとつの作品を完成させる」という一番難しく、かつ大事なハードルを乗り越えやすかった
制作中、メイキングをSNSにアップし反響があった。(大きなモチベーション)
グリーンバックで撮った素材とBlenderだけでMV作ろうチャレンジ!
まだライティングはどうしようか迷い中だけど、うまくいったらロケいらなくなるし世界中どこでもMV撮れる#b3d #blender pic.twitter.com/sEFbFmFT6J— Ray Wakui / 涌井嶺 (@Ray_T6L) September 28, 2020
Blenderを使っている人たちのコミュニティで刺激を受けた
他の人が良い作品をつくっていると、対抗心が湧いてきた。
公開後の反響
公開後は大きく反響が上がり、各メディアにも取り上げられる。VFX-JAPANアワード2022受賞
ミュージシャンが自らBlenderに挑戦してMVを制作。〜THE SIXTH LIE・Ray氏とメンバーに聞くMV『Everything Lost』制作の舞台裏@CGWORLD.JP
ここまで、何が大事だったか
「自分が納得するひとつのMVを創り上げる」ということだけにこだわった。
Blenderの進化と、実写合成ワークフローの変遷
Blenderがver2.8からv3.6になるにしたがって、どのようにワークフローが変化していったか。
- Eeveeの進化
- Cyclesの登場
- ジオメトリノードでやれることが増える
■こちらの作品でMVのワークフローを確立する。佐藤ノア - LADYBUG
■撮影から一ヶ月強で作成。Kawaguchi Yurina × ガンバレルーヤ - "Cheeky Cheeky" MV
■2023年作。初の自分のVFXチームでの作成
仕事としてBlender実写合成をやるうえで何が必要だったか
「自主制作」から「仕事」へ
- 案件としてのレベルの実写合成をする場合、クオリティの担保と納期の管理は必要
- 当初はEeveeを使って達成しようとしていたが現在はCyclesのフローに
- どのように他者と分担できるかも意識している。
現在の実写合成MVのワークフロー
Blenderが関わる部分は赤字
- 演出書作成/背景リスト作成
自分が監督だった場合に作成。背景はどういうものを作るかラフを作る。 - 撮影/オフライン編集/カット表制作同時に背景モデリング
カット表がとにかく大事。ここで効率が変わる。 - キーイングと並行して、カメラトラッキング/レンダリング
- コンポジット/カラコレ/本編集
演出書作成/背景リスト作成
セットの広さ、ライティングなどを事前にラフモデルで作成。
出演者、スタッフ全員に共有し、イメージを伝える。
背景モデリング
工夫している点
- カメラワークに映えるアセットの配置
- 出演者と背景のモデルとの距離をとってCG感を感じさせないようにする。
- 被写界深度も活かす
- 【Blender】背景単位でコレクション化して、リンク管理しやすくしている
カット表
編集データをリストで管理。
尺、使用データ、カメラ情報等
Blenderチームでの共同作業
複数人で作業する際に気を付ける事。基本的にデータの欠損が無いようにすること。
- プロジェクトごとのバージョン統一(特に3.4からMixノードが変更に
- ファイルのパス(PackやRelativePathを活用)
- アドオンの共有
極力アドオンを使わない
DropBoxで一括管理(※全員が有料プラン加入が必要) - カットやファイル番号、フォルダわけ、ファイル形式やカラーマネジメント統一
要はプロジェクトの仕様書が大事ってことですね
プロジェクトファイルのリンク管理
背景データはシチュエーションごとにファイルを分け、Linkでカットシーン(カメラワーク付き)に読み込む
Blenderで仕事をするために大事だと思うこと
- Blenderの技術以外の知識や強み(映像の知識やリアルさへのこだわり)
- 効率的なワークフローの確立
- 自分の得意分野を作品を通して発信する
こだわりがあるからこそ成せる
そんな熱量を感じる講座でした。
無為に色々と手を出している私にとって、考えさせられる講座でもありました。
「熱意をもってやりたいことに出会える」ことの難しさも実感しております。
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