塩田絵里氏『クリーチャーデザインの発想法と造形術』受講記録

2024年8月に行われたCGWORLD企画、 コンセプトアーティストの塩田絵里氏の講座、『クリーチャーデザインの発想法と造形術~美しさと鬱々しさの融合・魅力的な人体描写と退廃美の表現~』の受講記録です。学習メモ。

 

この記事では

『クリーチャーデザインの発想法と造形術』での学び・

をまとめています。

 

塩田氏のクリーチャー作成のフローを0からフィニッシュまで見ることの出来る貴重な機会です。

どんな風に作成しているのか、何を意識しているのか

ドンドン創り上げられていくモデルを見ながらの解説セミナーでした。

 

 講座を元に個人的に整理、解釈も織り交ぜているので、そのままの受講内容ではありません
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『クリーチャーデザインの発想法と造形術』

クリーチャーデザインの発想法と造形術

~美しさと鬱々しさの融合・魅力的な人体描写と退廃美の表現~

 

と題して塩田氏の創作時の考えや案を出し、それをモデルに落とし込んで絵として仕上げているのかを解説講座。

塩田絵里(乃江)氏

映画やゲームのコンセプトアーティストとしてキャリアをスタート、現在に至るまでデザインや背景制作、コンセプトアーティストのキャリアを継続している塩田絵里(乃江)氏(@taka2_horse)。

moco

子育てCG屋のリアルお茶会に参加して下さったり、Blender基礎クラスで同じクラスだったりと
面識のあるアーティストの方だったりします

■何を作っても絵になる…!

 

洗練された素敵な作品群は、ずっと見てられます。作品を見て判るように、人間と人外を融合させたデザインで多く創作されています。

塩田氏のデザインの発想法

発想の源は音楽にアリ。

塩田氏は作品を作成する前に、先ずはラフスケッチをおこなうそうで、ステップとしては

  • 好きな音楽を聴く
  • 湧いてきたイメージに従い自由に線を走らせる
  • 走らせた線の中から形を拾い上げることを繰り返して、理想のデザインにまとめていく

moco

イメージを常にアウトプットするコンセプトアーティストの方ならではな感覚ですね。
自分は音楽聞いたところで何も浮かんできません(笑)

陰と陽の要素

世界観の表現をする際に直感的にやってはいるが、よくよく分解してみると

陰/静の要素…鬱々視差 恐怖 悲しみ 死 静止

陽/動の要素…美しさ 神秘的 躍動感力強さ

バランスを64又は73ぐらいで考えている。

魅力的な人体描写のための基礎訓練

作品を作るにあたり魅力的な人体描写は欠かせない。デッサンやスケッチはやはり大事。

  • デッサンやスケッチ等の基礎訓練を省きSNS等の簡単ハウツー知識から入ってしまうのは非常に危険。
  • ハウツーはハウツーを書いた人が膨大な基礎訓練と観察・研究によって得た研究結果であり、他人がマネしてもその人の劣化版にしかならない

moco

話はズレますが、アニメーションエイドを受講した際にも
「既存のCGアニメーションをリファレンスにしない」という話の中で、そのアニメーションを作成したアニメーターの解釈が入っているのでリファレンスとしては適していないというような話がありました。それに近しいのかな、と聴いてて感じましたね

基礎訓練で得られるもの

基礎訓練で得られる力は単なる描写力のみではありません。

人物クロッキー、スピードスケッチから得られる力

  • シルエットを素早くとらえる力 ※時間は有限。特に大事
  • 人間の骨格や動き、衣服のシワの法則の理解
  • 勢いのあるストロークを描く力
  • 大きな明暗をとらえる観察力

モデリングの序盤に大切になる力

序盤は軸になるシルエットを素早く固める事

デッサン、時間をかけたスケッチから得られる力

  • 計上、筋肉の理解、男女や個々の体つきの差へのりかい
  • 自分の目を疑い、違和感に気づく力 ※ハウツーだけでは決して得られない。基礎練習が反映される
  • 思い切ったスクラップ&ビルドを結構する胆力
    違和感に気づいたらやり直す勇気も必要
  • 中間の形状をしっかり観察し描写する力(面で捉える)
  • 細かなディテールの描写力

モデリングの中盤以降に大切になる力

終盤の詰めが上手くいくかは中盤までの作り込が勝負

 

基礎訓練を繰り返すことで、最終的に自分の個性に昇華される。

 

moco

塩田氏はバレエダンサーの人体描写の研究・分析にハマっているそうで、その研究の結果が昨今の作品に反映されているとのこと。
塩田氏の作品は美しさや気品を感じることが出来ますよね

 

基礎訓練はとにかく大事!

モデリング解説

こちらの作品の解説回。


実際にZBrushで0から作成する工程を拝見することができました。画面キャプチャ等は出来ないためポイントのメモです。

ラフスケッチは既に用意されている状態からのスタートです

Step1.シルエットを素早く固める

moco

引いてはマウスカーソルを筆に見立てて仮のストロークを描いてらっしゃいました。
頭の中で絵を描いているとのこと。根っからの絵描きさんですね~

  • 序盤〜中盤はZBrushにデフォルトで入っているブラシでザクザクと彫り進んでいく
    • BlayBuildUpブラシ
    • Moveブラシ
    • Standardブラシ
  • 今回のモチーフが女性をベースにしていることもあって、バレエダンサーの所作、シルエットの観察が活かされている
  • 有機的なシルエット作成時には早い段階でシンメトリ機能を外して作業を行うようにしている

Step2.魅せたい部分の作り込み

  • 今回であれば顔周り、胸あたりを先んじて作りこんでいる。
    感覚として、全体を同じ進捗で進める必要性は無いと考えている。
  • キャラの設定次第で、人外感の割合は感覚的に変更している

目の作り込は難しい

  • ジブリ作品(特にもののけ姫)に影響を受けている。目力がすごい。

筋肉を把握する

  • 各パーツガチガチに細かに筋肉の名称を覚えているわけではないが、目立つ部分の筋肉に関しては「〇〇筋だな」という意識をもってスカルプトを行う

moco

こう言ったアナトミー系の書籍を数冊は持っておいても良いかもしれませんね

彫り直す勇気

  • 何か違うと感じたら、リメッシュしてローポリから再び彫り直すということもしている。シンメトリも使わないのでそのあたりのバランスが難しい

Step3.中盤の作り込み

  • 序盤で作成した大まかな筋肉の上に細かな筋肉を彫り込んでいく
  • ポーズに伴う筋肉の流れや、皮膚のシワ、脂肪など
  • レンダリングを繰り返して、陰影を確認しながら作業を行う

moco

体をひねった際に現れる肉の重なりなどを作り込むと一気に説得力が増すとのこと

マテリアルは明暗の出にくいものをあえて使う

  • マテリアルも頻繁に変える。あえて明暗さの出にくいマテリアルを使用することで彫り込みがしっかり出来る

講座内ではBasicMaterialとSkinshade4をよく使ってました。たまにブロンズっぽいマテリアルに変更してテンションを上げるなどの対策も。

メッシュを重ねて密度を上げる

  • 羽部分に関して、今回は蛾をモチーフにしているため、鳥の羽のようなディテール・密度を求めることが出来ない。
    そのためメッシュを重ねることで情報量を上げている

Step4.手の作り込み

  • 塩田氏は関節ごとSubtoolを分けて配置。その後Subtoolを結合し、指一本1本のディテールを詰めていく
  • 指先の流れは非常に大事にしている

Step5.終盤の作り込み

  • VDMブラシやアルファブラシを使ってディテールを彫っていく。
    ただ作り込のとっかかりとして使用しているだけで、そこから描き起こしていく。乗せてそのママにはしない
  • 筋肉の流れを意識して彫り込んでいく
  • 指先までしっかり彫り込む
  • 360度を見てシルエット調整

中盤〜終盤でよく使うブラシ

  • Slash3
  • DamStandard
  • ThickSkinClay

ThickSkinはあまり聞いたことないブラシだなーと思っていたら2021で追加されたブラシなんですね。

DammStandardは+ALTをしてエッジを立たせるように使うことが多いとのこと。

moco

他にもArtStationで購入したVDMブラシを使用されていました。

Step6.テクスチャ(Substance3DPainter)

テクスチャはSubstance3DPainterを使用。

  1. 標準搭載のブロンズ系マテリアルをベースに使用
  2. ストックフォトから気になる配色の蛾をいくつかピックアップし適用、偶然の色味を活かしていく
    →ランダムな配色になる。
    →描画モードを調整し、色味のとっかかりになる部分を作成
  3. 更にその上にブロンズ系マテリアルを適用、調整
  4. カラーのみにし、手動で描き込んでいく
  5. レンダリング⇔描き込みの繰り返し

moco

スカルプトした凹凸に対して、細かく描いていく様は圧巻です。

Step7.最終調整&ブラッシュアップ(Photoshop)

レンダリングした画像をPhotoshopに持って行って最終調整。

よく使う手法としては

  • ニューラルフィルターのカラーの適用
    →プリセットだけでなく、カスタムで自分でストックしていたカラー素材を適用する=普段からのアンテナが活きてくる
  • テクスチャを更に適用して、密度やランダム感をあげる
    →お気に入り素材は濁流のテクスチャ

moco

Substance3DPainterで全てを完結しようとしない、Photoshopに持って行ってからのブラッシュアップにも相当な時間をかけているように感じました。

いずれも素材を乗せて終わりではなく、必ず手動での調整・描き起こし作業が入っています。
教えたくないテクニックという話ではありましたが、これは画像のチョイスやその後の調整作業を拝見するに中々マネ出来ないスタイルではないでしょうか

Entei氏との差別化

今回のセミナーを開催するにあたって、先行してセミナー開催されていたEntei Ryu氏のセミナーとの差別化をとても意識されていたそう。

塩田氏的には、Entei氏は陽の要素が強い印象、ならば自分は陰の要素が強めな作風である所に着目して今回の構成を考えた。

関連記事Entei氏のセミナーメモ

  • 塩田氏自身、陰の要素への感受性が強い
  • 自主制作はその人の歩んできた人生や価値観がダイレクトに表現される場

創作のスタンス

塩田氏の創作のスタンスについて

リファレンス

  • 序盤のスケッチではあまりリファレンスを見ない。頭の中のインスピレーションを優先している
    →これまでの経験から、必要なアナトミー情報は頭に入っているため
    →普段の基礎訓練が活きている
    →普段から好きなこと、上手になりたいことにアンテナを張っておく
  • モデリングの段階で初めて資料を集める
  • テクスチャ作成時にはリファレンスを集め参考にしている

moco

満遍なくアンテナを張るより
好きこそものの上手なれ
という言葉があるように、好きなこと、表現したいものにフォーカスしていった方が良いと塩田氏。

広く浅くより、狭くとも深く深くが良いのでは。

息詰まったら距離を置く

息詰まる場面にであったら、1日2日寝かせて思考を休憩させている。

最後の最後まで寄り⇔引きでモデルを確認

少し彫り込んだら引いて確認を頻繁に繰り返し、常に全体を確認している。

水平/垂直を避ける

シルエットの流れを殺さないように調整する

Q&A

休憩中にもたくさんの質問&回答あったようですが、アーカイブには納められておりませんでした😢

Q.SubstancePainterでのテクスチャの作業で使用するモデルはZBrushでデシメーションしたモデルを使用しているのか

A.そうです。
ただコンセプトアーティストということもあり、モデラーとはことなり、リトポ等はあまりしていない。

創り上げるリアルが垣間見える

0からフィニッシュまで、試行錯誤しながら・模索しながら作成しているというリアルなアーティストの制作工程を垣間見ることの出来た今回のセミナー。
素敵な作品をドンドン創り上げるようなアーティストの方もこれだけ苦心しながら創作に臨んでいるのだなーと、シンパシーを感じる一幕もありました。

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